昭和49年頃の話し。
少し社会の荒波に慣れ始めた初夏に夜勤のシフトに入る。
前夜は眠らなきゃと思いつつ、なかなか寝付けなかった。
救急外来で、先輩ナースの指導を受けながら対応する。
交通事故や内科的疾患で、救急車が何台も来ていた。
その他、夕方から頭痛や何かわからない不安からくる不定愁訴で来院あり。
Drは外部からの当直で初対面だったせいか、私は少し緊張していた。
その中でDrの対応が印象深くとても気持ちよく面白かった。
Drは30歳後半でまだ経験が浅そうだが、表情は柔らかな感じ。
20時過ぎ、3歳の男の子が数日前から微熱が続いていて、夕方から高熱になり
夜になっても解熱せず来院。
大きな声でギャンギャンと泣き、母親に抱かれているが体は反り返り、相当機嫌悪く
逃げ出そうとしている状況。
母親は子供が泣きやまないため、Drに申し訳なさそうに下を向いたままだった。
診察にならないだろうなと思いながら、横からぬいぐるみを出したり、音が鳴る物で
あやすが泣き止まず。
Drが来るとさらに泣き声が大きくなり、抱いている母親の膝から降りようとしていた。
Drは何も言わずに母親を見て「泣いていても大丈夫ですよ」と伝えているような眼差しをしていた。
Drは白衣のポケットからゆっくり聴診器を取り出すと、なんと!
おもむろに子供の頭に当てたではないか!
泣いている男の子はいきなり頭に聴診器を当てられ、ポカンとした表情で視線は聴診器を追いながら泣くのを忘れた。
安全と思ったのか、面白そうに聴診器の動きに見とれている間に診察は終了した。
解熱剤が処方され、食事、水分を摂るようにと説明されて母親もホッとしたようで
二人でニコニコして診察室を後にした。
私自身も緊張していたのが一瞬ほぐれた時であった。
医者というだけで何となく威圧的な印象があったが、こんな先生もいるんだと気持ちが清々しいなと感じたことを覚えている。
診察が終わり少しDrと話す時間があった。話すと初対面を忘れるほど会話が続き楽しい時間を過ごせた。
朝方4時くらいまで何かとバタバタしたが初深夜勤務が終わった。