雨の日に迷い込んだご老人
外出から戻ったところに、マンション管理人から呼び止められた。
「お母さまが見えてますよ。鍵をお持ちでないと言われるので、
エントランスでお待ちです」と・・・・
えっ~!! 母親は数年前に亡くなっているのに・・・
あの世から来たのかしらと言うと、管理人!!びっくり。
管理人は、マンション玄関でウロウロされていたので声をかけた。
娘宅に来た、部屋は○○〇号に住んでいる、鍵は持ってないと言う。
部屋番号を押してコールするように伝えるが、しようとしなかった。
管理人がコールして不在。娘さんに連絡するように話したが、
ここで待たせてくれと言うので、雨の中に帰ってもらうのも忍びなく、
エントランスで待ってもらった。申し訳ないですと困惑していた。
誰だろう・・?と近づくと・・知らないご老人。
小柄だが、背中より大きなリュックサックを背負い、首から携帯電話を下げている。
荷物でパンパンに膨れているエコバック2個。
マンションを間違えて来たのだろうが・・なんて説明しようかと思いつつ。
あの~どちら様でしょうかと尋ねると・・・
・・・娘さん宅へ来たと言う。
ここは娘さん宅ではないことを伝えると・・ムッとした表情で娘宅と言い張る。
「あなたこそ、初めて見るけど、どなたなの?」と不機嫌な口調・・やっぱり・・
話題を変えなきゃ・・伝わらないと思い・・
雨の中お疲れでしょう。娘さんが帰って来るまで待ちましょう。
と言うと「すみませんね、どこに行ったんだろうかね」と少し落ち着いた。
しばらく他愛のない話をして、次第に表情も和らいできた。
地下鉄2駅を歩いて来た。地下鉄は人が多いから、好きじゃない、
年齢は83歳、一人暮らしだと話し始めた。
娘さんにもう1回電話してみましょうか? 急用があったかも知れないので・・
「そうやね、」と電話をいじり始めたが、どこを押していいのか、わからない様子。
一番大事な娘さんは1番かな??と誘導。
「そうやった、そうやった、」と電話をかけた。
娘さんと繋がった。話をしているが、通じてない。怒られているのか、
イライラしているようで、私をチラチラ見ている。
私が話しましょうと言うと、サッと電話を代わり、事情を話す。
すぐ迎えに行きます。すみません。と恐縮される娘さん。
娘さんすぐに戻られるそうですよ。と伝えると
笑いながら、「忘れていたんでしょう」と話す。
よかった。連絡がついてとホッとした。
もし、管理人さんが帰していたら、どうなっていたのか、つい最悪なことを考える。
管理人さんに結果とお礼を言うと、よかったですと安堵したお顔をされていた。
20分位して娘さん到着。
おばぁ様が「皆さんに迷惑かけて、どこに行っていたのか」とやや怒りモード。
娘さんが説明して、納得して理解できたようで、平謝りだった。
年齢を重ねると、自分が予想してない事が起こる。
決して、他人事では思えない今回のできごと。
自分だったらどうなったのか・・想像するだけで身震いがした。
何をどうすればいいのか、答えは出ない。
今を懸命に生きて、何かあれば、その時に考えるしかない。